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ジョー・R・ランズデール「死人街道」が最高でした

ジョー・R・ランズデール「死人街道」が最高でした
By Yasukuni Notomi • Issue #75 • View online
ウィアード・ウェスタン、日本語で言えば魔界西部小説、ジョー・R・ランズデールの「死人街道」が最高だったというお話しです。銃を持った牧師が、西部劇の世界でゾンビやら謎の怪物やらを殺しまくる連作短編集で、それだけ書くとB級ホラー小説のようだし、確かにそうなのですが、ではレナードやウィルコックの犯罪小説より低級なのかというと全然そんなことはない、文章が物凄く研ぎ澄まされていて、派手で馬鹿馬鹿しくて物悲しくてやりきれない傑作なのです。大好きです。

 ジョー・R・ランズデール「死人街道」読んだ。名作とは言わない。オススメもしない。でも、大傑作であることは間違いない。と言っても、多分、ランズデール本人は別に傑作を書いたつもりも書くつもりもなく、大好きな西部劇とウィアード・テールズを合体させた魔界西部劇小説、ウィアード・ウェスタンをきっちりと書いただけだと言うのだろう。序文「牧師の旅は果てしなく、果てしなく続く」には、このコルト・ネイヴィを持った神をくそったれと呼びながら、しかし自分はそのくそったれな神に悪鬼退治を課せられたからと、ゾンビやらコボルトやらを殺しまくる牧師の物語が生まれた経緯を解説しつつ、それよりも強い口調で、こういう小説に必要な技巧や書き方について書く。「パルプ小説にも他の小説と同じく良い文章と悪い文章がある」と語る部分は、全ての文章書きに読んでもらいたい、最良の文章読本のひとつだ。
 そういう文章で正しく書かれているから、とにかくこの小説はカッコいい。胸糞悪い登場人物しか出てこないし、更に気持ち悪い怪物との戦いの描写がほとんどだし、出てくる生き物は人も怪物も馬も犬も大体ぜんぶ死ぬし、ストーリーなんてほぼ無いし、超能力も無いし、武器は銃と棒っきれくらいだし、ゾンビものかと思ったらクトゥルーの世界も混ざってるし、元々、ランズデールが自分が見たいウィアード・ウェスタン映画の脚本として構想した物語だから、映画的な見せ場ばっかりだ。でも、それが、とてもカッコ良いリズムと言葉と、的確な描写で語られると、それは一級のエンターテインメントになる。西部劇の時代だから、誰もゾンビなんか知らない中、古い文献だけを頼りに、ゾンビ化した町中の人間と4人だけで戦う中編「死屍の町」の、徐々に町にゾンビが溢れていく様子やら、「死人街道」の、囚人護送の馬車での噂話から始まるゾクゾクする不穏さ、やたらカッコいい生き残りの娼婦と共に戦う「亡霊ホテル」の活劇としてのスピードと密度、幽霊屋敷モノのバリエーションを見事なアイディアで見せる「凶兆の空」、人も怪物も一応に気持ち悪く凶暴な中に、もしかしたらこのサーガの光になるような登場人物がチャーミングな「人喰い坑道」と、収録作は全部面白い。小説を読む楽しさを猛スピードで体験できる。ついてこられず途中で落っこちてしまう人を平気で置いていくようなストーリーテリングのカッコいいこと!
 出来れば、この本の後にもう一本、アンソロジーに収録されてるというThe Red-Headed Deadも含め、メーサー牧師シリーズ完全版として出してもらいたかったなあ。ランズデールの本、山ほどあるのに翻訳が少なすぎて、この「死人街道」が出たこと自体、奇跡みたいなものだから、ここで収録されないと日本語で読めるかどうか分からない。この本、植草昌実氏の翻訳がまた良いのだ。ああ、読みたい、そして、このシリーズ、Netflixでドラマ作らないかなあ。
 ウィアード・ウェスタン小説の有名どころと言うと、キングの「ダークタワー」シリーズになるのかも知れないけど、このメーサー牧師のシリーズは、それとは随分違う感触。ファンタジー色はほとんどなく、ひたすら、神様に悪態つきつつ怪物に銃をぶっ放す暗い牧師が、嫌な町を巡るだけの話で、描写はとことんリアル。日本で言えば、眠狂四郎が妖怪退治して回ってるみたいな物語だ。そう考えると、こういう話は日本の時代劇でも成立しそうだけど、あんまり前例は無いなあ。都筑道夫の「幽鬼伝」が近いかとも思ったけど、ここまで削ぎ落とした小説ではないし、ここまで暴力的な時代劇って無いんだよなあ。町ひとつ焼いてしまうみたいな話は日本じゃリアリティが無いのかも。聖書に書かれてるのは全部ウソと言いながら、怪物退治の武器としての聖書の有用性を認めて持ち歩いてるメーサー牧師のキャラと言った感じで、宗教を上手く使ってるのが「死人街道」のポイントだったりもするから、時代劇じゃ成立しにくいか。だからこそ眠狂四郎ならやれたんだよなあ、惜しい。アヘン戦争とか行ってないで、アメリカに渡ってゾンビの首切ってくれれば良かったのにw あと、設定もほとんどバトルシーンという構成もラノベっぽいけど、登場人物の誰にも共感できないし、感情移入もできない、だけど面白いというラノベには出来ない芸が見られるから、その辺に興味ある人は手に取ってみて欲しいなあ。
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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