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和久井光司責任編集「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」を読む

和久井光司責任編集「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」を読む
By Yasukuni Notomi • Issue #72 • View online
和久井光司責任編集「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」は、2021年の出版物の中でも、「三体3 死神永生」と並ぶ、みんな読もうよ本でした。少なくとも音楽や美術についての文章を書いている人はヴェルヴェッツのファンでなくても読んでおくべき本です。もちろん、ヴェルヴェッツやルー・リード、ニコのファンにはとても嬉しい本だし、ジョン・ケイルがきちんと位置づけられた初めての本でもあります。なので、良い本だったよー、という文章を書きました。副読本として、デビー・ハリーの自伝もお薦めしておきます。

和久井光司責任編集「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」河出書房新社、2450円+税
和久井光司責任編集「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」河出書房新社、2450円+税
 和久井光司責任編集の「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」を読んだ。基本はディスクガイドなので、三体3の発売もあるし、Kindleの50%還元セールで買って読みかけの本もあるし、ちょっとずつ音源聴きながら読もうと思っていたのに、読み始めると、あまりの面白さに最優先で読んでしまった。ヴェルヴェッツのリイシュー盤が配信に揃っていたのも読む助けになって、持ってない音源もとりあえず確認できる良い時代になったなあと思いつつ、うっかり、配信にない盤やら、手元に置きたい盤やらが見つかってしまって、色々買ったりもしてしまう危険な本ではあった。
 全体に、和久井さんの日本の音楽ジャーナリズムがアートと音楽の交差点としてのヴェルヴェッツについて、まともに捉えて来なかった怠惰に対する怒りと、音楽家としての自身の背骨になっている記憶と愛情で埋め尽くされている作りになっていて、それをディスクガイドの体裁で本にしてしまう剛腕と冷静さに震えた。これ、物凄い仕事だと思う。キンクス本もそうだけど、技術と表現とセンスと時代と産業などなどの「ロック」という製品を作っているパーツを、楽曲の中にきちんと見ながら、それらを切り分けた上で、言葉として再構成する形でのディスクレビューを、ここまで徹底して書けるのが凄いのだ。データ本でも感想文集でもないディスクレビューを書ける人がとても少ない日本の音楽業界の不幸が逆に露わになるという悲しささえ内包する本なのだ。
 それはそのままヴェルヴェッツという奇蹟みたいなバンドが、伝説としてしか語られない不幸と重なる。だって日本って美術業界でさえアートを語る言葉を未だ持ち合わせていない現実があるんだから、ヴェルヴェッツをきちんと位置付けるなんて最初から放棄してるようなもんだ。だからウォーホールのバンドみたいに言われる。その辺のついても、この本を読むと「あー」ってなる。ウォーホールのバンドでもあるけど、そうじゃなくもあることがハッキリ分かる。それをエピソードではなく、成り立ちの経緯と音で説明しているのがこの本なのだ。
帯の「バナナは剝かなきゃ意味がない」が、この本のテーマだ!
帯の「バナナは剝かなきゃ意味がない」が、この本のテーマだ!
 だから当然、メンバーのソロワークや末期ヴェルヴェッツ、再結成ヴェルヴェッツについても、同等の熱量で書かれている。そして基本、編年体というか個人史の交差になるように編集されてる。そうすることで、まるで連作短編集のような構造になっていて、最後のページがニコの墓碑の写真なのがいっそう沁みる。
 ありがたかったのは、ジョン・ケイルのコンピレーションやプロデュースワークのディスクが沢山紹介されていたこと。この本の中でも和久井さんが書いてるように、ジョン・ケイルはホント「ロック界最大の謎」というか振り幅が大きすぎて、アーティストであり職人でありプレイヤーでありシンガーであり、ポップでありアバンギャルドであり、ほのぼのしていて尖りきってるので、とても掴みどころがないし、ヴェルヴェッツとフィアとチェルシーガールの印象で語れれば楽だけど、盤を追っていけば、それだけではないのは明白で、作家のエピソードでしかアートを語れない人たちが主流を占める日本の美術や音楽の論壇の手に負えるはずもない。ホント、なぜライターの多くはインタビューを答え合わせの場だと思ってるんだろう(愚痴w)。残された作品を自分なりに分析した結果を、作家や時代に当てはめていく方向でしか、多分、何も見えてこない。大体、作者が作品の全てを分かっているはずがないのだ。
 だから和久井光司は、この本でジョン・ケイルというミュージシャンの輪郭だけをキッチリと提示する。そこから聴けば色々見えてくるよ、という問い掛け。だからこの本はディスクガイドの形を取る。重要なのは、音楽とアートが交差した果てに生まれた何かだから、その成果としてのディスクが一番前に来るのは当然だろう。
だからもちろん、裏表紙の帯は剝いてあるバナナなのだ。
だからもちろん、裏表紙の帯は剝いてあるバナナなのだ。
 そして、この本は「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版」なので、ヴェルヴェッツを理解するための本なのだ。だから、ジョン・ケイルが、ルー・リードが抜けた後のヴェルヴェット・アンダーグラウンドの重要性もきちんと語る。残ったメンバーとダグ・ユールがどんな風にヴェルヴェッツを終わらせたのかは、こういうバンドだからこそとても重要。そしてダグ・ユールが幻想としてのヴェルヴェッツを、音楽的にもそれなりに維持していたことを語る。モー・タッカーの復帰後の仕事にもしっかりページを割いて、ニューヨークパンクの租としてのヴェルヴェッツの姿にも落とし前を付ける。
 ほんと良い本だ。写真がいっぱいなのも嬉しい。色々ディスク欲しくなってお金使っちゃうのだけがネックだけど、こういう本があって、リマスターされて聴きやすくなった音源がいっぱい配信にあると、これからヴェルヴェッツを聴く人は随分とヴェルヴェット・アンダーグラウンドを分かりやすく聴けると思う。実際、リマスターを経てクリアになった&nicoとか聴くと、高校時代に感じた音の古臭さを全く感じないのだ。多分、クリアであるほど分かりやすくなるタイプの音楽だったのだと思う。それはノスタルジアというフィルターを必要としない音ということでもあって、今、これを聴いた高校生が「俺にもバンドができるかもしれない」って思っても全然不思議じゃない。
結局、ヴェルヴェッツの分かりにくさって、この人たちがカッコ良すぎるせいなのではないかと思う。
結局、ヴェルヴェッツの分かりにくさって、この人たちがカッコ良すぎるせいなのではないかと思う。
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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