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「ラブ&モンスターズ」とビルドゥングス・ロマンの基本

「ラブ&モンスターズ」とビルドゥングス・ロマンの基本
By Yasukuni Notomi • Issue #67 • View online
ネットフリックスで公開中の、劇場では日本未公開だった2020年の映画「ラブ&モンシターズ」は、なんとも良くできた、ジュブナイルSFであり、ビルドゥングス・ロマンのお手本のような映画でした。成長物語として、きちんと成長する条件が揃っていることを物語の中でハッキリと描く清々しさと、ほろ苦い、けれど堂々たるハッピーエンドという終わらせ方は本当、最高でした。

 Netflixで「ラブ&モンスターズ」を見た。日本未公開なのが不思議なくらいの面白い映画だったのだけど、まあコロナ禍の中での公開は難しかったのだろうとも思う。物語は、人類が、荒廃し巨大モンスターが跋扈する地上を捨て、地下でコロニー生活を送る地球で、それが起こった7年前に彼女と離れ離れとなった主人公が、彼女に会うために7日間、130Kmの旅をするというもの。その過程で、犬やヒトやロボットと出会い、臆病な少年は成長していく。もう堂々たるビルドゥングス・ロマンなのだ。そして、その結末も含めて、この物語はとっても正しいビルドゥングス・ロマンになっていて、ジュブナイルSFになっていて、モンスター映画になっていて、それらが一体化していることこそ、この映画がビルドゥングス・ロマンの傑作になっている証明になっているという、つまりは最高の物語なのだった。
 主人公は7年前、彼女をモデルに絵を描いているのである。それはそれは下手くそで、しかし彼女はそれを優しく受け入れて喜んでくれる。そして現在、彼は出会ったモンスターについて絵入りで解説する一種の図鑑のようなものを作っているのだが、その絵はとても上手いのだ。これは彼が努力できるタイプの少年であり、絵を描くことがずっと好きである事を示している。一方で、彼は昔から恐怖にかられるとフリーズするクセがあり、それだけにコロニーでの自分の存在意義を疑っている。コロニーのみんなは優しく、彼の美点もよく分かってくれているけれど、それではダメだと彼は思っている。だから、彼はようやく居場所が分かった彼女に会いに地上に出る決意をするのだ。この自分の意志で旅立つというのが良いし、この時点で見る側は、彼が成長できる人だということが分かっている。それはコロニーのみんなも分かっているから、危険だということも、死ぬかもとも思っていても、彼をきちんと送り出す。もうこの時点で最高である。巻き込まれて成長を余儀なくされるのではなく、自分で成長しようとする少年の物語だから。
 そして彼は犬に出会う。モンスターに襲われてフリーズしてしまう彼を助けてくれるのは、地上で生き延びて、前の飼い主のドレスを大事にしている犬なのだ。で、この犬の演技が凄い。犬だけ見てても泣ける。更に、地上で生きているオッサンと少女に出会い、彼らに地上で生きる術を教わる。オッサンが精神的な部分を少女がフィジカルな部分を担当するという設定がまた上手い。そしてロボットにも出会う。当時の最先端AIを搭載した会話ができるロボット。犬同様、ロボットの扱いも憎いほど心得ている脚本が物凄くよく出来ていて、泣けるという意味では、このロボットとの会話が一番泣ける。
 しかもこれらの出会いや別れは全部、ちゃんと笑いの要素もたっぷりで、軽快に描かれる。犬もロボットも嘆いても仕方ないことを知っていて、主人公もそれを当たり前のように受け入れる。こういう、ここで成長したよ、というあからさまな描写を避けて、いつの間にか成長しているという描き方がホント上手い。それをモンスターとのバトルシーンでさりげなく少しづつ見せるのも上手い。成長ってそういうものだし、いきなり才能に目覚めたりするものでもない。そしてうまいこと失敗することこそラッキーであるというテーゼがしっかり描かれるのだ。
 彼女と出会って終わりではないのがまた、ビルドゥングス・ロマンとして正しい。むしろここからが本題で、そして正しいハッピーエンドへと物語は進んでいく。彼の横に並ぶために、多分彼女のビルドゥングス・ロマンは始まるし、それが人類の希望にだってなる見事なエンディング。その彼はというと、大して何も変わっていないのだ。成長なんて、そんな唐突に起こるものじゃないし、世界だって変わらない。でも、ちょっと変わって、ちょっと生きやすくなってる。そこまでしっかり描いてるのが、この映画の魅力。
 モンスターの造形もいいし、それぞれのモンスターにしっかり個性があって、しかもちゃんと地球上の生物として描かれているのが、また最高。そりゃ、旅の間の食料とか寝床とかがハッキリ描かれてなかったりするので、ツッコミどころは多い。でもご都合主義とは違う描き方になってるから見ていてしらけないのだ。省略も上手いし、上映時間が1時間49分というのもいい。ジュブナイルとして、ビルドゥングス・ロマンとしてのお手本のような映画。歴史に残る名作ではないかもしれないけど、最高の物語のひとつだから、記憶に残っていくといいなあ。
ディラン・オブライエン主演『ラブ&モンスターズ』予告編 - Netflix
ディラン・オブライエン主演『ラブ&モンスターズ』予告編 - Netflix
ラブ&モンスターズ
Love and Monsters
監督:マイケル・マシューズ
脚本:ブライアン・ダッフィールド、マシュー・ロビンソン
原案:ブライアン・ダッフィールド
出演者
アリアナ・グリーンブラット 他
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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