小物王通信

By Yasukuni Notomi

エリック・ガルシア「さらば、愛しき鉤爪」を読んだ

#66・
77

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エリック・ガルシア「さらば、愛しき鉤爪」を読んだ
By Yasukuni Notomi • Issue #66 • View online
 エリック・ガルシアの1999年(日本語訳は2001年)の作品、「さらば、愛しき鉤爪」は、人間に混ざって生活する恐竜たちの物語であり、ラプトルの探偵による男の美学ではなく、恐竜の美学の元で書かれたハードボイルド小説であり、本格ミステリでもあり、ものすごくふざけたコメディでもあるという、とても凝った特殊設定ミステリでした。版元品切れで古書でしか入手できませんが、価格が高騰していることもなく、入手しやすいので、読みたい方はお早めの入手を。

 エリック・ガルシア「さらば、愛しき鉤爪」読んだ。恐竜探偵によるハードボイルドが出たというのは聞いてたけど、まあハードボイルドはなあ、と敬遠してたところが、ミステリマガジンの特殊設定ミステリ特集で、本格ミステリでもあると紹介されてたので、それは読まないと! と思って読んだら、ハードボイルドのパロディで、本格恐竜小説で、その上で、ちゃんと意外な犯人、意外なトリックをロジカルに解決する凝った小説だった。これがデビュー作って凄いな。作中にも出てくるけど、ジュラシックワールドの影響下で書かれたのは明らかというか、あの映画見た時、友人と「恐竜はその辺にいるよね」と話していたのを思い出した。設定の骨子は、そこだったのだと思う。ラプトルが主人公だというのも、それを裏付けてるんじゃないかなあ。
 好きだったのは、「電話では話せない、会えないか?」と言ってくる相手は必ず殺される事を、主人公のラプトルにして探偵のルピオも気がついていて「電話で話せよ!」と突っ込みを入れるところ。この手の、ハードボイルドの定石をパロディにしたような会話が山ほど入っていて、それだけでも十分笑えるのに、人間に紛れて恐竜たちが独自のネットワークを持ち、ヒトの中で正体を隠しながら普通に生活しているという設定を細かく書き込み、実在の人物も実は恐竜というネタをあちこちに散りばめ、しかもキャラクターの性格に恐竜の種類を上手く当てはめているのが、また面白い。「だからコンビーって奴は」みたいなセリフがバンバン出てくるのだ。
 そして、ヒトと恐竜の関係性やヒトと恐竜の間にある差異が事件に密接に絡んでいて、メイントリックも、そこがポイントになっているプロットの上手さよ。バカ小説なんだけど、考えてみれば、ジャンル化した後のハードボイルド小説というのは、かなり間抜けなスタイルの小説で、それを2000年代に書こうとしたら、こんな風にふざけることが重要というか、それがハードボイルドへの愛なのだという考えで書かれた小説なのだと思う。そういう捻れだけで出来てるような、オフビート恐竜ハードボイルド。アメリカでは連ドラにもなってるらしいけど、日本で見られるのかな。作者は、リドリー・スコットの「マッチスティックメン」の原作小説も書いてる。あれも変な話だった記憶があるけど、あんまり覚えてないから、見直したい。さて、次は続編「鉤爪プレイバック」読むかな。
 このシリーズ、原題は、これが「アノニマウス・レックス」で2作目は「カジュアル・レックス」で、邦題以上にふざけてるのもいいなあ。レックスって言ってるけどティラノサウルスなんてほとんど出てきもしないのだw そして、読んでいる私の頭の中のルビオ・ヴィンセントの姿は、いしかわじゅん描くパンクドラゴンなのだった。人間に混じって生活している恐竜といえば、やはりパンクドラゴンになってしまうのは仕方ないのだ。
エリック・ガルシア「さらば、愛しき鉤爪」
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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