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月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」

月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」
By Yasukuni Notomi • Issue #63 • View online
フリーペーパー「ココカラ」連載中の「見ようぜ!浮世絵」から、月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」の巻をお届けします。天ぷらが食べたいなあという話です。むまさう=うまそう、なのです。ところで、この小物王通信も2ヶ月以上、ほぼ毎日、読み物をお送りしてきましたが、さすがに毎日は、読む方も大変だろうと思うので、週1〜2回を目安に、不定期配信にします。なので、メールアドレスを登録して頂ければ、読み損ないがなくなると思いますので、ひとつ、よろしくお願いします。

月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」
月岡芳年「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」
 江戸の食べ物というと、何となく野菜の煮物のような和総菜や、でなければ、鮨や蕎麦といった、いわゆる江戸前なものを想像してしまうが、これが結構バラエティに富んでいたらしい。江戸中期には砂糖の量産に成功しているし、同じ頃に菜種油などの食用油も普及。練りきりなどの和菓子や、天ぷらなどの揚げ物も、江戸後期には当たり前に庶民の味覚だったようだ。それこそ、当時、上流階級には脂っこい魚が嫌われていたこともあり、マグロなどは庶民の食材として、鍋物の主役だったりしている。また、肉類も、猪は身体が温まる薬だからとか、鶏や雉子は二本足で鳥だから獣ではないとか、色々と理屈をつけて、かなり当たり前に食べられていた。筆者は、猪肉を使った「ぼたん鍋」や、マグロとネギを醤油で煮込んだ「ねぎま鍋」を、江戸時代のレシピで食べたことがあるが、味付けも食べ方も、今よりもこってりしたボリューミーなもので、ちょっと、江戸のイメージが変わる。
 月岡芳年の「風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗」は、明治の作品だが、幕末の江戸、嘉永の頃の風俗を描いたもの。江戸中期に流行った天ぷらは、この頃も屋台が中心で、東京湾の魚介に衣を付けてごま油で揚げた、その揚げたてを天つゆをくぐらせてハフハフと食べていた。その後、料理屋でも天ぷらをだすようになって高級化していく。この絵を見ると、手前の皿には沢山の天ぷらが並び、蕎麦猪口になみなみと天つゆが注がれ、海老天を箸で持って月を見ながら天ぷらを食べる遊女が描かれている。この頃はまだ、天ぷらというのは海老や貝柱、穴子、こはだ、するめ、といったものを揚げたもので、野菜の天ぷらは「精進揚げ」と呼んで区別していたそうで、だから彼女の皿に野菜の天ぷらはない。ご飯と一緒に食べるものでもないし、基本的には、天ぷらは当時のファストフードだったと考えられる。この絵にしても、月見ついでに手早く食べられるもの、という感じで描かれているように見える。今でいうところの、肉屋のコロッケのようなものなのではないかと思うのだけど、そう考えると、魚屋の天ぷら、という文化が生まれず、高級化してしまったことは、何だかとても残念だ。まさか、鹿児島やら、佐賀やら、山口やら、高知やらの田舎から出てきた連中によって作られた明治政府のせいではないだろうなと、つい勘繰ってしまう。特に、筆者は佐賀の出身で、かつて佐賀にあまり天ぷらが文化として根付いていなかったことを知っている(今は、佐賀にも美味しい天ぷら屋がある。特に「みねまつ」の天ぷらは絶品である)ため、そんな妄想にも信憑性があるのではないかと考えてしまうのだ。
 浮世絵には、あまり食事のシーンが描かれていない。食事というものが特別視されていなかったということもあるだろうし、絵にならないと思われたのかもしれない。一方で、豆腐百珍のような、豆腐の料理の仕方を100種類載せたレシピ本がベストセラーになっていたりするのだから、食に興味がなかったということはないと思う。ということは、多分、浮世絵的なフィクションに食事という日常を合わせることを良しとしなかったということなのだろう。だから、鮨、天ぷら、うなぎ、蕎麦といった、「ザッツ江戸」な食べ物は登場する。これらは、食事というより江戸の風俗なのだ。だから江戸土産としての浮世絵になる。ただ、どの絵を見ても、食べている人の表情はおいしそうだったりするのに、モノ自体はそれほど美味しそうではない。天ぷらにしても、多くは、ただの黄色い物体だ。魚をあれほどリアルに描くくせに、鮨の絵もなんだかおざなりだし。地方まで天ぷら文化が行き渡らなかったのは、そのせいではないかと疑っている。
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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