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ハリボテのトーキョーでキンクスを知った

ハリボテのトーキョーでキンクスを知った
By Yasukuni Notomi • Issue #62 • View online
 2021年4月11日、原宿クロコダイルで、「Koji Wakui Presents 鰐の穴 Vol.31『ザ・キンクス~書き割りの英国、遥かなる亜米利加』発売記念 APEMEN(Play The Kinks)」が行われました。ゲストはなんちゃらアイドルバンドと一色進、APEMENのメンバーは、和久井光司 / 菊池琢己 / 藤原マヒト / 金森佳朗 / 伴 慶充。なんちゃらアイドルバンドについては、この小物王通信の「なんちゃらアイドルバンドとニューウェーブの青春」で詳しく書いたのでそちらを読んでいただくとして、今回はキンクスを日本語でカバーする楽しさみたいなことを中心に、APEMENのLiveについて書きます。これは裏日本語のロックの系譜をなのかも知れません。

 キンクス的なことをやっている日本のロックバンドはほとんど居なかったと、和久井光司はLive前のトークで話す。「ムーンライダーズ、一色進、サエキケンゾウ、スクリーン、メトロファルスくらいしか居なかった」と言う。あと、少し違う形でシーナ&ザ・ロケッツくらいか。私の感覚としてもそんな感じだ。韜晦する歌詞、虚構を歌うことを「ロック」というカテゴリーで行うにあたって、そこに笑いを取り入れることや、悲喜劇をそのまま歌うことは、それこそ日本ではニューウェーブ登場以前では、ほとんど見られないスタイルというか、ロックというジャンルがそれを許さなかったようにも思える。その意味では、ザッパやマーク・ボランの流れではあるけれど、頭脳警察→PANTAもその系譜に入るのかも知れない。「俺にはコミック雑誌なんかいらない」だし。
 シアトリカルでバカみたいな、しかし、そこには生活者としての観察眼から生まれる喜劇でしかないような現実が歌われる。少しひねくれた諦念と、それに抗うドン・キホーテ的なコメディとしてのフィクションを「ロック」という音楽形式で洒落のめす。そんな面倒くさいことを、しかしやるとカッコいいのだということを示したのがレイ・デイヴィスで、そこにまず反応したのが鈴木慶一であり、ムーンライダーズだったりしたのだろう。和久井さんのキンクス本には「示し合わせたわけじゃないのに、みんながキンクスのソープオペラを聴いているようなバンドなんだよ」というような鈴木慶一の言葉が引用されている。
 その影響下にスクリーンがいて、それを示すようにLiveはスクリーンの「冬の海の色」と「僕のファクトリー」の2曲で幕を開ける。キンクス本を読んでいる間中、私の頭の中で「OKパ・ド・ドゥ」が流れていたのも、多分、そういうことで、それは人によってはメトロファルスのサカモギソングだったりするかも知れない。そんな日本語ロックのもう一つの流れ。
 それを証明するかのように、日本語で歌われるキンクスは、ほとんどニューウェーブのロックに聞こえる。ペーソスに浸ることのないバカと狂騒、裏表の悲しみと絶望、そしてビートが奏でる希望。ウォータルーサンセットを小樽サンセット、ローバジェトを低予算と歌う和久井さんの力の抜けた、しかし芯の通った歌唱と、デイブ・デイヴィスまんまのようにはしゃぎ回る菊池琢己のギターの、和製キンクスっぷりが、そのままコメディになっている徹底した演出が凄い。何度もYou really gat meのイントロを弾いては「早い早い」と和久井さんに止められる、キンクスのLiveを誇張した演出を、PANTAの長い相棒でもある菊池さんがやってることの面白さよ。天丼が過ぎて、繰り返されるごとに笑いが大きくなっていく。地響のLIVEも見たくなる。その前にジェファーソン・エアトレインとヘルメット・アンダーグラウンドかw
和久井訳によるローラの訳詞の一節。
入れパイだって分かってる
でも揉みたくなっちゃう
それが本能だ、ローラ!
 これ聴いた瞬間、思わずメモってしまったのだけど、その後のMCで和久井さんが「これが書けた時はレイ・デイヴィスに近づけたなと思った」と言ってて、それでまた笑ってしまった。ローラを知ってる人は、これ歌ってみるといいよ。メロディへの言葉の乗り方の見事さと馬鹿馬鹿しさに感動しつつ「ああ、これがキンクスだ」という気分になれる。
 そして、サニー・アフタヌーンは泳げたい焼きくんの歌詞をごっそり引用しながら海の中の階級社会について歌う。メロディ似てるのよねw アンコールのYou really gat meは花粉症に悩む男が「ちり紙!」と叫ぶ。なんちゃらアイドルの二人がティッシュを撒き散らして踊る。ラストはヴィクトリア。ビクトリア直営店全店の場所を歌詞に重ねて、みんなで「ヴィクトーリア!」の大合唱だ。それはほとんど「バラがなくちゃ生きていけない」と叫ぶライダーズのLIVEのようでもあり、なんちゃらアイドルのivory songのようでもあり、カーネーションの夜の煙突のようでもあり、スクリーンのまた会おうのようでもあり、近田春夫の金曜日のエンジェルのようでもあり、サエキケンゾウのブルー海岸のようでもあった。
締め、切り、キツイよね 
徹夜でやっても終わらない
それ、言う? いまさら?
買うもの買って準備した
根性でできるなら
始まってるさ 仕事だもん
この金額はどうしてなの?
説明してくれ社員に
ひでぇ、低予算 やめてくれ!
低予算  ありえねぇ
ひでぇ、低予算 殺す気か!
労災なんてウチは出ない
 もちろんローバジェットである。あのメロディにこの歌詞なのだ。それがキンクスの楽しさなら、そりゃ日本人には伝わりにくいよね、ということが身体で理解できてしまうLiveで、でも、それを翻訳してくれていたニューウェーブのバンドがあって、ムーンライダーズもいて、日本語のロックのそっち側、若さと反抗と暴力とドラッグではないロックを聴かせてくれていたのだ。シティポップの虚構性とも違う、ハッタリとハリボテの中にあるロック。書き割りのトーキョーの歌を聴くのに、原宿のキャッチストリートの脇の地下にあるクロコダイルというロケーションもまた泣けるのだった。
セットリストは以下。
APEMEN(plays The Kinks)
2021.4.11 CROCODILE Set List
01. 冬の海の色 (Inspired from Alcohol)
02. 僕のファクトリー(Inspired from Misfits)
03. Till The End Of The Day                                                                                                                                                                                                                         
04. Waterloo Sunset
05. Sunny Afternoon
06. Village Green Preservation Society (周平 vo)
07. Low Budget
08. Where Have All The Good Times Gone
09. (Wish I Cloud Fly Like)Superman
10. Lola
11. Celluloid Heroes
12. Apemen
13. Stop Your Sobbing
Encore with なんちゃらアイドル
14. You Really Got Me
15. Victoria
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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