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なんちゃらアイドルとニューウェーブの青春

なんちゃらアイドルとニューウェーブの青春
By Yasukuni Notomi • Issue #61 • View online
 2021年4月11日、原宿クロコダイルで行われた「Koji Wakui Presents 鰐の穴 Vol.31『ザ・キンクス~書き割りの英国、遥かなる亜米利加』発売記念 APEMEN(Play The Kinks)」は、本当に良いLiveで、ほとんどムーンライダーズから始まる日本のキンクス的ロックの系譜をきっちりと辿り直しつつ、レイ・デイヴィスの捻れた笑いのセンスを全体に染み込ませた、ちょっと歴史に残る試みだったのだけど、それは後回しにして、ここでは、ゲストで出た、なんちゃらアイドルバンドで泣いちゃったという話をお届けします。学生バンドの青春がそのままパッケージされたような、未熟のリアルのお話です。

 呼び込みのナレーションで和久井光司さんが「下手っぴですけど、大好きなバンド」と紹介した通り、なんちゃらアイドルバンドは、演奏が下手だ。その下手さが、地方の高校でそこそこ演れるけど、上手いバンドは他にいくらでもいるというレベルの絶妙な下手さで、そのフィクションみたいなリアリティにオープニングから胸を締め付けられる(なんちゃらアイドルは、マミとあおはるによる二人組のアイドルユニットで二人の時はオケをバックに歌うのだが、バンド形式で出る時は、なんちゃらアイドルバンドになるらしい)。
 そして、あおはるがキーボードの前に立ち、マミがマイクの前に立ったら「ivory song」が始まる。「もっと上手に歌えたら、もっと上手く踊れたなら」と歌う二人が、オンビートでポジティブなメロディを笑顔では歌わないのだ。それどころかマミは顔を隠すようにマイクを持ち、ヘッドバンギングのような形で顔を伏せる。演奏は微妙にバラバラで音にまとまりが無い。
 その時点でもう俺は泣きそうになってた。下手なアイドルが上手いオケで笑顔で歌うのはよく見る。上手いアイドルが上手いバンドをバックに歌い踊るのも見る。しかし、そこにあったのは、下手なバンドをバックに「届いてない」ことを自覚しながら、今できる精一杯を見せるアイドルになりたい女の子たちだ。これをロックと言わずに何をロックと言うのだ。初めてギターを持って、ガーンと弾いて嬉しくて、でも弾きたい音には全然届かなくて、その出来る範囲でカッコいいロックらしきものを鳴らそうとした、あの気分が、冷凍保存されてたかのように、コロナ禍の東京の地下のライブハウスで展開している。
 マミの歌と踊りには、明らかに理想とする動きや歌があって、それに向けて必死で足掻いているのが、ちょっと恥ずかしいくらい透けて見えて、「なんちゃらアイドル旅講座」の「なんちゃらの先へー」という歌詞が「がむしゃらの先へー」と聴こえてしまって、涙が滲む。なんだこの青春は。マミの相方があおはるなのは洒落ではないのだろう。
 で、ビックリすることに3曲目は和久井光司率いるスクリーンの大名曲「Life goes on」なのだ。いや、アルバムではムーンライダーズの「Cool Dynamo, Right On」とかケラ+鈴木慶一の「君はGANなのだ」、カーネーションの「夜の煙突」をカバーしてるのだから、スクリーンを演っても不思議なことは無いのだけど、それでも本人を前に代表曲だよ。そしてそれは物凄く未完成で、でも、物凄くニューウェーブっぽかった。ニューウェーブの下手さによる世紀末的なリアルが、まさかの令和に蘇って、目の前で演奏されているのだ。もう涙が流れ落ちるのが止められなかった。
 アイドルになりたい女の子二人がいて、それを支えたいと思う男の子たちがいて、女の子たちのプロ意識の高さと明確な理想に引っ張られるように、必死についていく男の子たちという物語が背景にあるということでも無いだろうけど、そういう妄想が形になったような演奏が続くのだ。マミもあおはるも上手くはないけど、臆さない。そして彼女たちが考える理想の歌と踊りの形は、とっても正しいもののように見えるように、彼女たちは歌い踊る。「海の家」(ライダーズの曲じゃないよ)でのあおはるが弾く鍵盤ハーモニカの揺れる音が、「Just a moment」でのマミの16で8ビートを踊るダンスが、それを示しているように思う。その志の高さがちゃんと表に出ているから、和久井さんも一色さんもサエキさんも、彼女たちを応援しているのだろう。ほんともう異様に甘酸っぱいのだ。そしてそれはバンド形式であることと密接に結びついている。Youtubeで見るオケをバックに歌う二人からは、このエモーションは感じられない。
 最後の曲で、遂にギターの男の子がリードボーカルを取るパートが出てくる。そして彼は歌が上手いのだ。声もいい。彼のギターソロで踊るマミの姿は、その頃にはすっかり可愛く見えている。短い手足を、それでもセクシーに動かして踊る姿は、登場した頃のNOKKOを思わせる、ちょっとコミカルにさえ見える動きなのだけど、その足りなさがカッコよく見えてくる。
 アイドルのバックに若くて下手なバンドという組み合わせは、多分まともなプロデューサーなら絶対やらない。打ち込みは多少アレンジが下手でもリズムはヨレないしw でも、そこに目指す明確な何かがあれば、あのニューウェーブの頃のようなリアルなロックミュージックが生まれることが奇跡みたいなことであることには違いはない。だからホント不意撃ちだったし、びっくりした。で、家に帰ってもアーカイブで繰り返し「Life goes on」を見ている。こういう形でロックは継承されることもあるのだなあ。
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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