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時を越える笑いの研究 〜妖怪狂言の楽しみ〜

時を越える笑いの研究 〜妖怪狂言の楽しみ〜
By Yasukuni Notomi • Issue #58 • View online
2002年に某M社のWebで連載していた、笑いについてのコンテンツを笑いの中で紹介するという企画の第七回「妖怪狂言」編を公開してみます。変な連載で書くのも大変でしたが、とても楽しい仕事でした。Webでは、最近、こういう馬鹿みたいな企画がやりにくくなってるなあと思いつつ、読み返すと、やっぱり馬鹿みたいで、でも結構、ちゃんと書いてるんですよ。「俺の家の話」完結記念もあって、狂言の話を公開しておきたかったのです。

「これは、このあたりに住まい致す者でござる。日夜、笑いについて考察成し、その成果を、姫冠者と申す粗忽ものに話すことを生業としているものでござれば、まーず、姫冠者を呼んでみようかと存ずる」
「誰が、そこつ者か」
「おおっ、急に飛び出したは、姫冠者ではないか。そのように、年寄りを驚かすものではないわ。心の臓が、どくんどくんと鳴っておるぞ」
「チッ」
「今、何か申したか?」
「何も」
「そうか、それならば良い。それでは、今日の講義を始めようか。姫冠者、ここへ」
「はーーーー」
「居たか」
「大前田大五郎」
「誰が、侠客の大親分か、こういうときは『御前に』と言うのじゃ」
「ごぜんに?」
「おまえに、と読む」
「お前と呼んでもよいのか? おい、お前、あっ痛い、何すんのよ」
「この口か、この口が言うたのか。そのような口は、こうしてくれるわ。ほれほれ」
「痛やの痛や、そのような御無体を」
「太郎冠者と言えば、召使いの第一号のこと。つまり姫冠者というのは、わしの召使い。それが狂言のお約束じゃ。主であるわしに、そのような口を聞く召使いは、こうしてくれるわ、ほれほれ、どうじゃ、どうじゃ、ろさんじぇるす・どじゃーず」
ボカッ
「おお、この女は、主に向かいて暴言を吐くのみならず、頭を小突きおったな」
「ろさんじぇるす・どじゃーず、などという狂言がどこにあるか、この爺めが」
「あるのじゃ。狂言というのは、笑わせるためなら、何をしても良いのじゃ。言葉と動きで笑わせる芸能、それが狂言なのじゃ。茂山千之丞殿も申しておる。
『つまらなかったら帰ってもらえばいい。そういうものなのです。見せ物ですから』
何と、すがすがしい言葉であろうか。さらに、このようにも言っておられるのだぞ
『狂言役者はコメディアンだと思って見てもらえばいいのです。そのつもりでこっちもやっていますから』
ということじゃ。どうじゃ、どうじゃ、じょーじあこーひー」
「何を言うのですか。狂言は高尚な伝統芸能なのです。その狂言の普及に、我が家は命を懸けているのですっ」
「お? 今のは誰じゃ」
「何か、妙なおばさんが、走り抜けながら叫んでいたようでございます」
「そうか、この連載にもゲストが出るようになったか、目出度いのう」
「頼うだお方」
「何じゃ」
「して、此度は何故、狂言口調なのでござりますか?」
「ようやく、そこに気がついたか。その一言を待っておったぞ。待って、待って、待ち続けて、すっかり年を取ってしまったわ」
「昔から、年寄りだったくせに」
「何か言うたか?」
「何も」
「では、狂言を見に行くぞ」
「は?」
「此度は、狂言の舞台を紹介するのじゃ」
「ブタ、でござりますか?」
「舞台じゃ」
「謎の?」
「物体えっくす、というシャレか?」
「たかさごーやー」
「謡いのシャレのつもりか?」
「頼うだお方、今日は突っ込みがキツうございますなあ」
「狂言の口調では突っ込みは難しいのじゃ。勢い、つっけんどんな物言いになる」
「愛が感じられませぬ」
「狂言に『愛』を求めるでない。時代を考えるのじゃ」
「いや、先程、何でもありだと」
「バカめ、笑わせるためなら何でもよいのじゃ。愛で笑えるか? バカめ」
「そうバカめ、バカめと人をお浸けの実のように。愛もやりようで笑えるもの。あいあいあいあい、おさーるさーんだよー」
「合格じゃ」
「合格でござりまするか。あれ、嬉しや」
「などと、話しておるうちに、もはや狂言の会場じゃ。さあ、ついて参れ」
「はーーー。『妖怪狂言』でございますか」
「そうじゃ、大蔵流茂山家が、京極夏彦書き下ろしの『豆腐小僧』『孤狗狸噺』と、古典の『梟』を演じる興業なのじゃ」
「わたくし、狂言を見るのは初めてでござりまする。笑ってもよろしいのでしょうか」
「笑え、笑え、面白ければ、わっははははは、と大笑いするのじゃ」
「では、遠慮なく、わははははははは」
「そうじゃ、笑うのじゃ、わははははははは、『梟』は面白いのう」
「わーっはははははははははは、『孤狗狸噺』も面白うござりまする」
「わっはっはわはっはっははは、ほれ『豆腐小僧』じゃ」
「はっはっはっ、でござりまする」
「よし、これだけ笑えば、読者にも面白さが十分、伝わったことであろう。では、帰るぞ、姫冠者」
「え? 頼うだお方、これは手抜きと思われませぬか?」
「しーっ」
「御小用でございますか? それなら、ろびいの横に御不浄がございましたが」
「小用では無いわ」
「したが、しーっ、とおっしゃられたではありませぬか。おう(手を打つ)、手抜きと申したのが、当たっておったのでござりますね」
「手抜きではないぞ。これから見る方々を慮って、面白い、ということだけを一途に表してみただけじゃ。いわば、親切じゃな」
「親切が聞いて飽きれる」
「何か言うたか」
「何も」
「そうか、では帰ろうぞ」
「本当に、このまま、お帰りになるのでござりますか?」
「何ぞ、障りでもあるか? 納富も眠いと申しておるのじゃ」
「それは、朝までかかっても書けぬ納富の自業自得」
「それもそうじゃな。では、どこが面白かったか、姫冠者が申してみよ」
「はーーーー。では、まず『梟』の、憑き物落としに失敗したことを隠そうと、祈り殺そうとする法印が笑いましてございます」
「そうじゃな。後、梟が憑いた時の千五郎の『ほーっ』という仕草が、昔、明石家さんまが演じた『パーデンネン』そっくりなのも、大いに笑ろうたな」
「『孤狗狸噺』は、繰り返しの面白さ、いわゆる『天丼』の手法が面白うございました」
「狐や狸が尻尾を出すところが、可愛らしく、面白かったな」
「『豆腐小僧』は、もう茂山千之丞の豆腐小僧が、そこに立っておるだけでも可笑しうて」
「妖怪とは何ぞや、ということへの、一つの答えでもあり、それでいて、豆腐小僧のぼやきが笑いを呼ぶ、楽しい狂言であった」
「ほんに、楽しうございました。茂山殿も、この狂言で、全国の学舎などを回られれば、子供たちも大笑いするでしょうに」
「うむ、一人でも多くの人に見てもらいたいものじゃ。のんびりして親しみやすい茂山家の芸風で、心地よく笑えるからのう」
「なかなか」
「それこそが、狂言の普及というものじゃ」
「ほんに、ほんに。それでは、仕事も果たしたことでござりますれば、頼うだお方にては、まず、こーっと、おいでなさりませ」
「それでは、参ろうか」
「こーっと、参られよ」
「ちょっと待て」
「は?」
「今、後ろに隠したものを見せよ」
「さあ、それは」
「さあ、それは」
「さあ」
「さあ」
「さあ、さあ」
「さあ、さあ、きりきりここへ、出しやがーれー」
「頼うだお方、それは歌舞伎でございまする」
「おお、そうであったな。わしとしたことが。しかし、歌舞伎も狂言綺語と言うてな。仲間のようなものでもあると言えばある」
「そうでござりまするか。流石は頼うだお方。では、こーっと、参られよ」
「おい」
「はい?」
「これは、わしが購うた妖怪狂言のぱんふれっとと台本集ではないか」
「はて、いつの間に、私の手にこのようなものが。はっ、これはきっと、化物の仕業に違いありませぬ」
「ぱんふれっとに付いていた、しーでいーが見当たらぬぞ」
「これはしまった」
「やるまいぞ、やるまいぞ」
「こわやのこわや」
「やるまいぞ、やるまいぞ」
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Yasukuni Notomi

AllAbout、日経トレンディ、朝日新聞、夕刊フジなどに連載中。オウンドメディア、片岡義男.com、その他諸々、あちこちで書いています。マツコの知らない世界、嵐にしやがれ、モニタリング他、テレビやラジオ出演も色々。そこからはみ出したネタや、愛用品、目立たないけど凄い新製品、うまいコーヒーやお茶や酒、浮世絵や歌舞伎や芝居、音楽、ミステリにホラーにSFなどなど、面白いものを随時、紹介しますので、読んでもらえると話のネタ、記事のネタになるかも。メールアドレスを登録すると、最新記事がHTMLメールで届くので、ちょっと面白いです。

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