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もぐら穴からこんにちは、紫原 明子です。 - Issue #4

もぐら穴からこんにちは、紫原 明子です。 - Issue #4
こんにちは。お元気ですか? 紫原明子です。
このニュースレターは、登録してくださったみなさまに、何ということもないただのお手紙を不定期にお届けするものです。

写真に撮られることで、家族が強くなる
著名な写真家は大きな器
先日、写真家の平間至さんがご自身の写真館で開催されたフリーマーケットに行ってきました。平間さんとはこの日が初対面でしたが、実はお会いする前からSNSを通じご挨拶を交わしていました。というのも1年前に、薬真寺香ちゃんという着物スタイリストの友人が、たまたま同い年である平間さんの娘さんと私の息子を引き合わせてくれ、二人は仲の良い友達になっていたのです。
そんな経緯で平間さんの娘さんはこれまでにも何度かうちにも遊びに来てくれていたのですが、彼女は対峙する大人がたじろぐほどのとてつもない才能とエネルギーの持ち主で、将来は間違いなく表現者となるだろうと周りの誰もが感じていたところ、今年ついに満を辞して芸術家としての道を歩み始めました。将来が楽しみで仕方がない彼女。そんな彼女の親御さんは一体どういう人だろうと、お会いできる日をずっと楽しみにしていました。
世田谷にある平間さんの写真館は、おしゃれな小規模複合ビルの階段を降りた地下にあります。地下とはいっても、写真館の入り口の前には自然光が差し込むテラスがあって、ときどき風が吹くと、どこからともなく桜の花びらがひらひらと落ちてくる、とても気持ちの良い空間が広がっていました。早速娘さんを見つけたので立ち話をしていると、フリーマーケットの手伝いをしていた香ちゃんがやってきて、平間さんを紹介してくれました。ようやくお会いできた平間さんは、錚々たるミュージシャンを撮影してこられた華々しいキャリアからは意外なほど、物腰柔らかく静かな人で、お話しているうちに、なんだかとても大きな、器のような人だな、と思いました。というのも平間さんは、会話の中でこちらが何気なく漏らした一言を、すべて丁寧に拾い上げてくださるのです。一見当たり前のようでいて、これができる人は決して多くないだろうと思います。娘さんのあの強いエネルギーが、臆することなくのびやかに発散されているのも、頑丈な受け皿がたしかにあると、お父さんを通じ、世界を信じられているからなのかもしれないな、と感じました。
家族写真を撮ることで家族は強くなる
実は私も最近まで知らなかったんですが、平間さんはご自身の写真館で、一般の家族やペットのポートレートを撮られていて、予約すれば誰もが平間さんに撮っていただくことができるのです。写真館の窓には、これまでの作品がずらりと掲示されていて、どの写真に写る人も、驚くほど生き生きとした表情を見せています。そんな中私は、ある一枚の写真に無性に強く惹かれました。その写真には、年配の男性と、その男性よりもう少し若い男性の2名が写っています。二人とも、笑っているでも、怒っているでもない、ただ強い眼差しでこちらをじっと見つめています。親しげかというとそうでもない、どこか緊張感を漂わせながら、しかし、お互いに特別な存在であろうことは一目でわかる、そんな不思議な写真でした。
「二人はどんな関係なんだろう」思わず私が呟くと、近くにいた平間さんが、彼らは親子であり、同時に、そろって特殊な技術を持った職人であることを教えてくれました。親子であり、師弟関係でもある。もしかしたら、ライバルでもあるかもしれません。複雑な関係性が織りなす二人の絶妙な表情が、見事に切り取られた一枚でした。
写真館のパンフレットには、平間さんにとっての写真、特に家族写真がどういうものかというインタビューが掲載されているのですが、そこで平間さんはこんなことを語られています。
永遠に流れ続ける時間を、一瞬止めて切り取るということ自体、とても大切な行為じゃないかなと。よく写ってようが、悪く写っていようが、その瞬間は二度とかえってこないわけだから。そう言う意味でも僕は、家族というものは、写真を撮ることで強くなるんじゃないかなとも思っているのです
僕は家族の定義というものを、”一緒に生きていこうと決意した集団”だと捉えているんです。写真というのは、その決意の確認作業でもあるんじゃないかなと
これを読んで私は、なるほどなあ、と思うと同時に、自然とオープンダイアローグのことを思い出しました。
ポートレート撮影とオープンダイアローグ
ご存知の方も多いかもしれませんが、オープンダイアローグというのは対話を用いて行われるカウンセリングの一種で、精神疾患の治療目的のほかにも、引きこもりや夫婦関係など、家族の問題解決のために用いられることもあるといいます。
オープンダイアローグの場では、悩みを持つ当事者とともに、カウンセラーや利害関係のない人が複数人臨席し、まずは当事者の話を聞いて、それに対し、対等な立場の第三者から、客観的なフィードバックがなされるといいます。自分(たち)の問題に外の視点を入れることで、それらを客観的に受け止める機会を得る。これによって、問題解決へと向かっていく。そんなオープンダイアローグと非常によく似たことが、平間さんのポートレート撮影の現場でも行われているのではないか、というように感じたのです。
写真を撮るとき、被写体にとって第三者である平間さんは、被写体とカメラのレンズ越しに対話をされるのでしょう。その上で客観的に見た被写体の姿を、写真によってフィードバックする。対話の場において何より重要なことは、参加者が安心できることです。特に家族というのは、社会に対してどうしたって閉じた集団で、だからこそ常に、社会規範では計れない不安定さ、脆さを内包しています。そしてそれをそのまま外に見せることを、私たちは恥ずかしいことのように感じます。そんな中で、何が出てきても受け止めてくれると信じられる、大きな器のような平間さんの存在があるからこそ、被写体は安心して自分を解放し、自然な表情を見せることができる。さらに、自然な自分で写った写真だからこそ、その中にはきっと、微妙なバランスを保ちながらも、案外まんざらでもない表情で、そこにいるべくしている自分の姿を見つけ出すことができる。「写真を撮ることで家族が強くなっていく」という言葉には、こういったプロセスがあるのではないかと感じました。
……一方私はというと、自分を客観的に見る、誰かのフィードバックを受け取る、ということに実はものすごく苦手意識があり、だからもぐら会のお話会でもフィードバックの時間は一切なく、誰かが話したら話したことがそのまま全て受け止められるという仕組みにしているほどですが、そんな私でも、平間さんにはいつかぜひ、我が家の家族写真を撮っていただきたいな、と思っています。
みなさんもぜひ、いかがでしょうか。
平間写真館 TOKYO
そしてこれを書きながら、そういえば私にオープンダイアローグについて教えてくれたカウンセラーの友人も、かつては写真家を仕事にしていたということを急に思い出しました。彼が紆余曲折の末にオープンダイアローグにたどり着いたというのも必然だったのだなと、今、勝手に納得してしまいました。そんな彼が最近、共著でオープンダイアローグのやり方についての本を出版しました。とてもわかりやすく書かれているので、もし関心がある方はぜひ読んでみてください。
『マンガでやさしくわかるオープンダイアローグ』向後 善之・久保田 健司 (著), 大舞 キリコ (作画)/本能率協会マネジメントセンター
最後に、お願いです
私は最近ますます、ニュースレターっていいな、と感じています。インターネット上にある読み物は、その存在を知ると同時に他の人の具体的な感想が見えてしまうせいか、一人で読んでいるはずなのに、常に誰かと一緒に読んでいる気持ちになります。でも、ニュースレターならば、もう少し静かに、自分だけで読めるような気がするのです。そしてこの感覚は、自宅で本を読むときの感覚と比較的近いのではないかとも感じています。
著者は書いたものを通じて読者に出会うし、読者は読んだものを通じて著者に出会います。私は著者である場合にも、読者である場合にも、大勢の中の一人として誰かに出会うのでなく、「あなた」と「私」として出会いたいな、と思うのです。
そして正直にいうと、著者としての私は、「私」と「大勢」として誰かに出会わなければと考えることに、去年あたりから少し息切れしてきてしまいました。もともと、そうしたくないなと思いながら、しかしそうとばかりも言っていられないので限りなくそれに近付けるように、それでいて、嘘のないようにという気持ちとの折衷案でやってきていたので、いずれこうなるだろうということはわかっていました。だから今年は少しの間「大勢」に向けて書くことを休んで、「私」と「あなた」として出会うために、書いていきたいと思っているのです。ただ、それもそれで困ることがあって、それはやっぱり、まだ見ぬ「あなた」にも、何らかの方法で新たに出会い続けていかなければならない、ということです。そうしなければ、いずれは書き続けていくことができなくなってしまうのだろうと思います。
そこで図々しくも、お願いがあります。このニュースレターを読んでくださったあなたが、少しでも読んでよかったな、と思ってくださったら、「紫原のニュースレターはいいよ!」と、一言でも誰かに話してくださったり、ツイートをしてくださったりすると、私は本当にありがたいのです。大きな網を、私一人が、私の近くにいる人が吹き飛ばされてしまうくらい大きな力で遠くまで投げるのではなくて、私のすぐ側にいる人が必要としている小さな網を、時間がかかっても、人の力を借りながら、数珠繋ぎで大きくしていけたら……なんていうことを思っているのです。
とはいえそんなことできるかどうかもわかりません。そもそも予想外に長くなってしまったこのレターを、一体どれほどの人がここまで読んでくださるのかも定かではありません。が、もしもこのコールにレスポンスしてくださる方がいたら、私は毎晩その方の幸せを祈りながら眠りにつきます。ですのでどうか何卒、奇特なあなたのお力を貸していただけましたら幸いです。
紫原明子
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Weekly newsletter of 紫原 明子🍞しはら あきこ

愛と家族と社会について考えるエッセイスト。著書『家族無計画』(朝日出版社)https://t.co/3MWtyLpCeJ など。色々連載中。#WEラブ赤ちゃんプロジェクト 泣いてもいいよステッカー発案 #もぐら会 #猫町倶楽部 shihara.akiko@gmail.com

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